私はただ人間の罪というものを深く感じたのです。その感じが私をKの墓へ毎月まいげつ行かせます。その感じが私に妻の母の看護をさせます。そうしてその感じが妻に優しくしてやれと私に命じます。私はその感じのために、知らない路傍ろぼうの人から鞭むちうたれたいとまで思った事もあります、こうした階段を段々経過して行くうちに、人に鞭うたれるよりも、自分で自分を鞭うつべきだという気になります。自分で自分を鞭うつよりも、自分で自分を殺すべきだという考えが起ります。私は仕方がないから、死んだ気で生きて行こうと決心しました。

私がそう決心してから今日こんにちまで何年になるでしょう。私と妻とは元の通り仲好く暮して來ました。私と妻とは決して不幸ではありません、幸福でした。しかし私のもっている一點、私に取っては容易ならんこの一點が、妻には常に暗黒に見えたらしいのです。それを思うと、私は妻さいに対して非常に気の毒な気がします。

私はただ人間の罪というものを深く感じたのです。その感じが私をKの墓へ毎月まいげつ行かせます。その感じが私に妻の母の看護をさせます。そうしてその感じが妻に優しくしてやれと私に命じます。私はその感じのために、知らない路傍ろぼうの人から鞭むちうたれたいとまで思った事もあります、こうした階段を段々経過して行くうちに、人に鞭うたれるよりも、自分で自分を鞭うつべきだという気になります。自分で自分を鞭うつよりも、自分で自分を殺すべきだという考えが起ります。私は仕方がないから、死んだ気で生きて行こうと決心しました。

私がそう決心してから今日こんにちまで何年になるでしょう。私と妻とは元の通り仲好く暮して來ました。私と妻とは決して不幸ではありません、幸福でした。しかし私のもっている一點、私に取っては容易ならんこの一點が、妻には常に暗黒に見えたらしいのです。それを思うと、私は妻さいに対して非常に気の毒な気がします。